分数aug is 何?(前編)
- clesre
- 2021年3月5日
- 読了時間: 4分
更新日:2021年4月5日
「分数aug」という謎のコードがあるらしい。
呼び方はそれ以外にも「blackadder chord」とか「日本の増六」とかいろいろある。これらは少しずつ用法が異なるが、とりあえず置いておく。
名前を聞いたことがある人も、それがどういう響きか知っている人もそれなりに多いと思うが、理解するにはかなり厄介なので一度整理してみようと思う。
まず「分数aug」とは?
文字通り「ベース指定のあるaug」ということになるが、ベースは何でもいいわけではなく「augのどれかの構成音の全音上か下にベースがある」必要があるそうだ。
例えばCaugだとしたらベースはDかF#かB♭。
特別に「blackadder chord (コード名としては blk)」と呼んだ場合には「根音・減5度・短7度・長9度のコード」とされ、augの根音の減5度下にベース音を置くことになる。
Caug/B♭はベース音とaugの根音が減5度ではないのでblackadderではないように見える。でも、CaugはEaugの転回形、B♭はA#の異名同音と解釈できるので「A#blk」と表せて、これもblackadderだ。
分数augといえば、槇原敬之氏作曲『どんなときも。』と田中秀和氏作曲『灼熱スイッチ』だ(と私は思っている)。
この2曲での分数augの使われ方は大きく異なるように見えるが、実際はどうなのか検証していこう。
[注意:度数表記のI~VIIは、曲の調にかかわらず自然長音階上の度数とした。短調ではVIが主音ラになる。]
■『どんなときも。』サビ直前の分数aug
サビ直前(↓の動画で1:20~)で分数augが使われている。
「ダッダッ / ダダッ / どんなときも」の部分のコードは
F#→F#aug/B#→BM7 (in F#)
度数表記に直すと、
I→Iaug/IV#→IVM7
「I(トニック)→IV(サブドミナント)」 という完全4度上への進行の途中に、
「Iaug/IV#」というよく分からないものが挟まれている、というふうに見える。
ここで一度構成音を(主音をドとして、下から順に)すべて記すと
I(=ドミソ) → Iaug/IV#(=ファ#ドミソ#) → IVM7(=ファラドミ)
となる。これでようやく全貌がつかめる。
① Iの時に低音域にあったソが、IVM7で最低音のファになろうとしてファ#を経由する。
② Iの時に高音域にあったソが、IVM7でラに向かう時にソ#を経由する。
➂ Iに含まれるドは、IVM7でも使われているため動かずそのまま残る。
④ Iに含まれるミは、その場に留まる。(後にIVM7でファになる)
(↑ミもIVM7でも使われているので、➂と同じく動かなかったという解釈もできる)
こうして発生したファ#ドミソ#の和音が、Iaug/IV#だと考えられる。
■『灼熱スイッチ』サビ頭の分数aug
サビ頭(↓の動画で1:04~)で分数augが使われている。
「スマッシュする ゆう / じょう / それとも」の部分のコードは
B→Baug/F→Em (in Em)
これも度数表記に直して、
V→Vaug/II♭→Im
『どんなときも。』の分数augはI→Iaug/IV#→IVM7で「I(トニック)→IV(サブドミナント)」の変形ということができたが、
こちらは「V(ドミナント)→Im(トニック)」の変形といえそうだ。
同じように構成音を(主音をラとして、下から順に)すべて記すと
V(=ミソ#シ)→Vaug/II♭(=シ♭ミソ#シ#)→Im(ラドミ)
よって、(いろいろ小さな違いはあるものの)同じように解釈できる。
① Vの時に低音域にあったシが、Imで最低音のラになろうとしてシ♭を経由する。
② Vの時に高音域にあったシが、Imではドになるので、予めシ#(=ド)になっておく。
➂ Vに含まれるミは、Imにも含まれるので動かずそのまま残る。
④ Vに含まれるソ#は、導音(主音ラの半音下)として留まる。(後にImでラになる)
こうして発生したシ♭ミソ#シ#の和音が、Vaug/II♭だと考えられる。
というふうに、2つの分数augは意外と似たような構成をしていた。
これ以外にも分数augを使った進行はいくつかある(『灼熱スイッチ』イントロ、『More One Night』サビなど)が、確認した限りではほぼ全て(※後編で補足)が上の2つに分類できるものだった。
『どんなときも。』では、I(トニック)→IV(サブドミナント)の中間に発生する。
『灼熱スイッチ』では、V(ドミナント)→Im(トニック)の中間に発生する。
I→IVもV→Imもどちらも4度進行(=完全4度上への進行)だ。
ということは、
他の4度進行にも分数augを挟むことができるのでは?
思考実験してみる。
4度進行を多く使った進行といえば、
4536進行にツーファイブワンをくっつけたアレ。
IV→V→IIIm⇒VIm⇒IIm⇒V⇒I
⇒の所が4度進行になっているので、全てに分数augを挟んでみる(無謀)
① augにしやすいように一部のマイナーコードをメジャーに変え、
② ⇒の箇所に機械的に分数augをぶち込み、
➂ 8小節に収まるように調整する
ことによって、
|IV |
|V |
|III IIIaug/VII♭|
|VI VIaug/III♭ |
|II IIaug/VI♭ |
|V Vaug/II♭ |
|I |- |
こういうコード進行ができた。
見た目は凄いが調性感が破綻せず、原型を留めている。
試聴できるように音声ファイルを貼ったり、これを更にアレンジする話をしたり、裏コード(トライトーン代理)の話にも触れたりもしたかったけど、今回はここまでにする。
続きは後編で。
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